平 凡蔵。の 創作劇場

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散散歩歩。(528)アイラブユー・ほたえてくれ!みゆきさーん。(188)

「全然、似てない。」吐き捨てるようにミニボンが言った。
年に何回かテレビでものまねの歌番組を放送しているのを、偶然チャンネルを変えた時に見かけることがある。
そして、何気なくそのまま番組を見るとはなしに見ていると、サザンオールスターズだとか桑田佳祐さんのものまねをやることがある。
そんな時は、決まってそのものまねを全否定するのである。
凡にしてみたら、割と特徴を捉えているなと思う場合もあるのですが、まったく似ていないというのである。
とはいうものの、凡はミニボンの桑田さん愛を知っているので、それ以上はなにも言わない。
でも、そこまで否定しなくてもと思うのである。
正確に言うなら、思っていたのである。
いつだったか、今年に入ってぐらいの時に、凡はみゆきさんのものまねをしているところをテレビで偶然見かけたのであります。
もともと、みゆきさんのものまねをする人は少ないような気がする。
歌によって歌い方が随分と違うものだから、ものまねも難しいんだろうと思う。
でも、偶然見かけたテレビのみゆきさんのものまねを聞いて、ズッコケタ。
どこをどう聞いても似ていないのである。
というか似ているところを探すのが不可能だ。
声も似ていない。
歌い方も似ていない。
顔も似ていない。
仕草も似ていない。
つまりは似ている部分がゼロだ。
その時に、凡はミニボンが桑田さんのものまねを全否定する気持ちが解ったのである。
そしてテレビのものまね歌手言いたかった。
どこか1つでもいいから似ててくれよと。
それにしても、どうして凡はみゆきさんに、こんなにまでこころ奪われてしまったのだろうか。
そして、見た目の好みも変わってしまった。
どこかみゆきさんの面影をもった人が可愛いと思ってしまうのである。
コンビニのみゆきさんもそうだ。
近くのコンビニにみゆきさんに似た人がアルバイトで働いている。
最近は、凡の最寄りの駅にあるシュークリーム屋さんに、ほんの少しみゆきさんに似ているような気がする女の子に気が付いた。
この、ほんの少しでもいいんだ。
そして、にているでもいいんだ。
そして、ような気がするでもいいんだ。
何となくみゆきさんに似ているだけで可愛いと思ってしまう。
そして、帰り道にいつもそのシュークリーム屋を覗くのだけれど、いつもはいないのである。
週に1日か2日ぐらいしか凡の帰宅時間には出勤していない。
「最近、見かけないけど、辞めたんやろか。」そんなことを思っていると、「あんた、そんなこと心配してるんかいな。」とミニボンが呆れたように言った。
それはそうだね。
そんな年の離れた女の子の心配は、その女の子にしてみれば気持ちが悪いことこの上ない。
しかも、その女の子とみゆきさんは何の関係もない。
ただ、「ほんの少し」、「似ている」、「ような気がする」だけなのであるから。
そして、そんな凡の心配は杞憂であったようで、先日帰り道にシュークリーム屋に目をやると、果たしてほんの少しみゆきさんに似ているような気がする女の子が出勤していた。
凡はいそいそとカウンターに歩み寄って、嫌われない様に笑顔でシュークリームを1600円買った。
そして店から離れたら鼻の下が1センチ伸びていた。
家に帰ると、シュークリームを見てミニボンが言った。
「また、ようさん買って来たね。今日は可愛い子おったんやね。鼻の下デレーンと伸ばして買ったんかいな。」
ご名答です!
さすがミニボン。
凡の行動はすべて分っているようであります。
しかし、その日はそれほどシュークリームを食べたいとは思わない日だったのでありまして、それほど食べたくもないシュークリームを、生ものだから早く食べなきゃいけないと、どうにもアホなことしているなと微苦笑しながら、ミニボンの淹れてくれたアイスコーヒーで食べたのでありました。
それにしても、「ほんの少し似ているような気がする」というのは厄介なものでありますね。
そういえば、ミニボンは桑田さんに、「少し似ているような気がする」人には興味が無いようだけれど、そっちの方が正統派なのかもしれないね。
凡もそこは見習わなきゃね。
そして、叫びたい。
みゆきさん本人じゃなきゃダメなんだと。

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