フェリーでの船旅は楽しいものですね。
日生から大部までの1時間5分の短い時間ですが、それでも陸路とは違った趣を味わうことができます。
何より船内が広いので、ウロウロ歩きまわる事も出来るし、食事も出来る。
皆がそれぞれ思い思いに過ごす事が出来るのが船のたびの良さかもしれません。
特に小豆島へのラインは、小さな島が沢山点在しているので、船窓から流れ行く島々を眺めていると、どこか遠い国へ行くような旅情を感じるのであります。
気分転換に一人で船の一番上の展望デッキに出てみた。
潮の香りをいっぱいに含んだ湿った空気が、凡の体全体を包むように吹き抜けていく。
気持ちがいいなぁ。
そう思ったのではあるが、実は足が震えている。
凡はどうも海というものが苦手だ。
あの暗くて深くて、どこまでも続く海に、説明のつかない漠然とした恐怖を覚える。
しかも、凡は極度の高所恐怖症である。
船のデッキの端に行く事ができない。
早々に船内に下りてきた。
すると、ミニボンが言った。
「一緒に上のデッキに行かへん?」
凡は即座に答えた。
「行かへん。」
「何で。」
「何でて、怖いやん。」
「怖いて、何が怖いの。」
「何がて、もし海に落ちたらどうするの。たまたまデッキの上が濡れていて、それでツルッとなって、それで、勢いがついちゃって、デッキの手すりにバーンってなって。
それで、勢いが何かの拍子で変な具合になってやな、手すりからツルンと体が回転してやな。
それで、海に落ちたりしたらどうするのよ。
そんでもって、たまたまそれを誰も見てなくて、おーい助けてー!なんていっても汽笛がボーッって鳴ってしもてやね。そこにいた毒くらげでビリビリって弱ってるところに、何か得体の知れない軟体動物が顔にペタペタ鼻の穴を塞いだりして、うっ、息ができないってなったうえに、サメが足首をガブリって。
サメも凡を味わうように足首から膝、太ももとジワリジワリとかじっていくねん。
もう、いっそ一気にかぶりついてくれーーー。」
考えただけで足が貧血を起こしそうだ。
どうして皆はそんな想像が出来ないのだろうか。
君子危うきに近づかず。
凡はデッキには近づかないのである。
しばらくすると、デッキから帰ってきたミニボンが言った。
「子供でもデッキで遊んでたで。」
ああ、何と無謀な親であろう。
子供だよ。子供。
もし、デッキでツルンとなって、手すりの棒の間から、これまたツルンとなって、海に落ちたらどうするのだろうか。
考えただけで、足がガクガクしてきた。
凡はゆっくり船内のソファに座って、これからの小豆島の旅に思いを馳せよう。
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