平 凡蔵。の 創作劇場

恋愛ストーリーや、コメディタッチのストーリー、色んなストーリーがあります。
どれも、すぐに読めちゃう短編なので、読んで頂けたら、うれしいです。

創作劇場は、ここをクリックしてください。⇒⇒⇒

散散歩歩。(251)アイラブユー・ほたえてくれ!みゆきさーん。(20)

入場が始まると並んでいたお客さんが一斉に会場の中にあるグッズ売り場に向かった。
凡がオールインのグッズを買ったのは、外に設置された開場までの先行販売である。
でも、並んでいたお客さんは中のグッズ売り場で買おうとしている。
何でも中の売り場だと、先着何名かにはみゆきさんのサインが付いたものが買えるそうです。
なるほどね。
だから1時間半以上も並んでいたんだね。
東京国際フォーラムの階段を上がると、両サイドにビールやワインの飲めるコーナーがあって、なかなか雰囲気がいい。
その横にあるエスカレーターに乗って上に登って行く。
何しろ2階席でありますから。
2階19列56番。
2階のフロアも、これはなかなかに広い。
その広い2階フロアの中間ぐらいだろうか、凡の席があった。
座ってステージを見ると、客席に結構な傾斜がついているので、ステージ全体を俯瞰することが出来る。
間違いなくステージを見ることが出来るのであります。
とはいうものの、遠い。

画像

座席に座ってからも、まだまだ時間がある。
周りを見渡すと、想像通り年齢層が高い。
男女比では、男性が7割ぐらいだろうか。
しかも、50才60才代が多いようで、しかも1人で来ている人も目立つ。
よっぽどに、みゆきさんが好きなんだろうね。
奥さんを家に置いて出かけてきたんだろうか。
あるいは、もう連れ合いを亡くしたのか。
あるいは、独身なのか。
などと、周りのお客さんを見ながら想像を巡らす。
とはいうものの、他人から見れば、凡も同じなのでありますという訳であります。
さてさて、待ちに待った時間がやってきました。
緞帳が上がると、みゆきさんの登場です。
「きゃー。可愛いー。」なんて叫びたくても叫べなかったのです。
何しろ、遠い。
果てしなく、遠い。
2階から見るみゆきさんは、顔と髪の区別がつかないほど、小さく、小さく、小さく、ステージの真ん中に存在していました。
割と目の良い凡でさえ、見えないのだから、これは周りの人も見えていないだろうなと思ったけれど、誰も文句を言う人はいない。
皆、静かに聴いている。
大人だ。
みゆきさんのファンは大人なんですね。
凡も見習って大人しく聴いていた。
なのだけれど、もうダメだ。
みゆきさんに逢いたくて逢いたくて、それでコンサートに来たのに、みゆきさんが確かにそこに存在しているのだけれど、すごく遠い存在に感じるのです。
つらい。
つらいのです。
みゆきさんは、凡なんかには逢ってもらえない遠い存在だっていうことを、これでもかというぐらいに思い知らされた。
でも、今日はスタートなんですからね。
みゆきさんの歌だけを聴いてウットリとすることにしよう。
コンサートでは、みゆきさんもたっぷりと歌ってくれて、本当に良かったです。
それにしても、最後の恩知らずの時に、前奏がかかると、バックコーラスの人が、両手を頭の上で叩いて、みんなに手を叩くことを促すのですが、あれは止め欲しいな。
そのせいで、観客の何人かは立ち上がって手を叩いたりする人も現れる。
これは迷惑なんですよね。
2階席でも若い男の子が立ち上がって手を叩きだした。
あの男の子の後ろの席の人は、嫌だったろうね。
折角みゆきさんの歌を聴きにきているのに、邪魔されるんだから。
あの男の子は後ろの人の事をどう思っているんだろう。
後ろの人は、見えなくってもいいんだって思っているんだろうか。
音楽というものは、魂を揺さぶるものだ。
だから、歌を聴いて感極まって、自分の体を抑えきれないという人もいるだろう。
そういう人は、それは素晴らしいと思うし、自然なことだ。
でも、少しは後ろの人も気にしてほしい。
たとえば、階段の方か端っこに移動して立って手を叩くとか。
たとえば、凡だったら後ろの人にこう頼むね。
「ごめんなさい。この歌が大好きなんです。この歌を聴いていると、どうしても立って手を叩きたくなるんです。そうですよね。解ります。解ります。あなたの気持ち。折角お金を払って見に来ているんですもんね。その何分の1かは私が立つために見れないんですよね。そこで相談なんですが、次の曲で私が立つことによってあなたが見れない部分を、あなたが当然に見ることができるだろう権利を、どうでしょう、1000円ぐらいで譲ってもらうという訳にはいきませんか。解ります、解ります。お金じゃないんですよね。さあ、でもここは、どうかお願いするわけにはいかないもんでしょうか。」とね。
まあ、実際は凡は立って音楽を聴くことをしないので、こんなお願いもしないのでありますが。
コンサートの始まりに、「このコンサートでは、立つことは禁止です。」なんてアナウンスしてくれないかな。
実際、そうして欲しいと思っている人は多いんじゃないだろうか。
さて、無事初めてのコンサートを終えて、さてさて、ホテルに戻ることにする訳であります。
なのだけれど、なかなか会場を離れなれないのです。
どうも、名残惜しい。
まだまだ、この会場の雰囲気に浸っていたいのです。
帰り道も、何だか歩くスピードが遅くなる。
コンサートの帰り道は、どうも寂しいですね。
今まで、時間を共有してきた見も知らぬ観客が、誰も話しかけたりはしないんだけれど、何となく誰かを意識しながら、ぞろぞろと歩いている。
その感じがまた名残惜しくもあり、寂しくもある。
そうして歩いていると、東京駅に着いた。

画像

最近改装されたんだけれど、どうも前の方が良かったと凡は思う。
前の東京駅には、凡の好きな内田百閒さんや、鉄道が好きだった人の、匂いがまだ残っていた。
まだ、20代の頃だけど、そんな匂いを嗅ぎたくて東京まで来たことがある。
今は、そんな匂いはなくなってしまった。
赤レンガだけは、しっかりとあるんだけれどね。
どうも、その赤レンガがポジティブ過ぎる。
凡にとっての東京駅には暗さも必要なんだよね。
さて、ホテルに一旦戻ることにしよう。

画像

コメント

タイトルとURLをコピーしました