7月20日(月曜日)。
青春18きっぷを握り締めて、大阪を出た凡は、山陽本線を西に進んでいく。
三原駅を過ぎると、楽しい風景が広がる。
どうして楽しいかと言うと、尾道辺りまでは、青春18きっぷで、よく来るので、その風景も見慣れている。
でも、三原より先は、あまり行く回数は少ないので、車窓の風景が楽しいのである。
1304 岩国駅着。
ここで、次の列車まで、28分ほど時間がある。
となると、この岩国駅で、やらなきゃいけないことがある。
ラーメンを食べるのだ。
急いで、改札を出て、駅前のラーメン店、寿栄広食堂さんに飛び込んだ。
岩国で時間があれば、必ず食べに寄るお店だ。
ラーメンと、いなり寿司を注文。
ラーメンは、安定の美味しさだ。
兎に角、普通に美味しい。
ラーメン屋というと、最近は、特に味や作り方にこだわっていると、それを謳うお店が多い。
この1杯に、人生を賭けてます、みたいなね。
凝りに凝って、スープを作ったり、他のお店と違う味を追及したりする。
勿論、そんな風なお店で、美味しいお店も多いが、少しばかり、食べるのにシンドイ気持ちになることもある。
普通に美味しいじゃダメなのかと。
でも、この岩国のお店は、そんな気負った感じはなく、奥の厨房で作られたものを、お店の年配のお姉さんが運んでくれる。
町の食堂という感じだ。
そして、普通に、美味しいのである。
これが良いんだ。
しかも、普通に美味しいのだけれど、どこか、中毒にさせる、何かが含まれている。
何だろうね。
後から、大きなカバンを持った40代の男性が入って来て、1口スープを啜って、「ほお」という感じで口を「お」の字にして、2回、頷いた。
この男性も、初めて食べて美味しいと思ったのだろう。
きっと、リピート客になるなと思った。
このお店は、いつ食べても旨いのである。
しかし、1つだけマイナスポイントを言うと、お冷やの水が、不味い。
カルキが抜けてないのか、これだけは、いただけない。
たまに、地方に行くと、水が不味いことがある。
そう思うと、やっぱり大阪は、高度処理しているからか、普通に飲める水ではある。
急いで食べて、発車2分前に戻る。。
1332 岩国駅発。山陽本線。下関行き。
乗り込むと、2人掛けのシートに、それぞれ1名ずつ座っているというぐらいの人数だ。
すると斜め前のシートに、女子高生が座っている。
いやなに、また女子高生と書いて、凡と言う人間は、よほど女子高生が好きなのかと思われるかもしれないが、たまたま、今日に限って、目の前に女子高生が現れるのである。
凡は、普段は、折れそうなほど細くて長い指を絶賛してきたが、目の前の女子高生の指は、かなり太い。
というか、がっしりしている。
とはいうものの、これはこれで、可愛いなと見ていた。
しかし、こんな指の女の子は、きっと不器用に違いない。
そう思ってみていると、何やら、しきりにスマホの画面を拭きだした。
熱心に拭いている。
そしてカバンから、スマホの画面に貼るガラスのシートを取り出して貼ろうとしているのだ。
見ている方が、ハラハラする。
ちゃんと貼れるのだろうかと、じっと見守っていた。
「あ、そこそこ、そうそう、慎重にね。」とココロの中で、呟いてしまっている。
何しろ、こういう太い指の女は、不器用だからね。
ほぼ、間違いなく、そうだろう。
そして、ようやく貼れた時は、こっちが胸をなでおろした。
女の子は、指が太いぐらいだから、体型もがっしりしている。
ミニボンと同じだ。
ミニボンは、身長が143センチなのに、何故か、Mサイズの服を買ったり、大きい人用のコーナーで買ったりしている。
七分袖のブラウスを買ったら、何故か、袖の長さがピッタリだ。
ミニボンとは、そんな生き物なのだ。
目の前の女子高生もまた、ミニボンのようになるのかと想像したら、可哀想になった。
すると、今度は、化粧をしだした。
凡は、化粧については、よく知らない。
手の甲に乳液のようなものを取り分けて、それを顔に塗っている。
時に、パタパタと叩くように、小さな手鏡をもって塗っているのである。
女子高生も大変である。
というか、女に生まれたら化粧というものをしなければならないのが、面倒くさいだろうなと、これは同情するのではあります。
暑い夏なんて、特にそうだ。
すると、今度は、毛抜きを取り出して、まゆ毛を抜き始めた。
まゆ毛が終わると、今度は、口の周りのヒゲだ。
ヒゲというよりは、産毛だろう。
それを、熱心に毛抜きで抜いては、指先で確かめて、また毛抜きで抜く。
それが、結構な時間続いている。
なにも、そこまでツルツルにしなくてもと、凡は見ていた。
「あのねえ、女はね、見た目が大切なの。だから、あたしはこうやって、口の周りの産毛を抜いているわーけ。言っとくけどねえ、あたしだって、まんざら捨てたもんじゃないのよ。どうよ、この肌、綺麗でしょーっ。どうよ、どうよ。この肌はね、おばあちゃん譲りなのよ。うん、今日も肌の調子がいいわ。」
なんて、こころで呟きながら、口の周りの産毛を抜いているのだろうか。
「あの卓也なんてさ、女は細い方が良いなんて言ってたけどさあ、バカだね、ありゃ。女はね、あたしぐらいのポッチャリが良いのよ。それが解んないって、あいつバカだよ。いや、バカと言うより、人生経験が貧弱なのよね。そうよ、成熟した男性はね、あたしぐらいのが好きらしいよ。そんな男はね、金持ってる訳、あんな卓也とは違うわよ。卓也、言っとくけど、男は金よ。いい?ってかさあー、ホント、あたしってイイ女じゃない?」
なんて、思っている筈だ。
「はあ、この口の周りの産毛抜くの、疲れるね。でもさ、これが重要らしいんだよね。あれ何だっけ、セブンティーンだっけ、明星だっけ(今も、明星はあるのか?)、男はね、女とキスしたときに、口の周りの産毛が気になるらしいよ。だから、あたしもこうやって、抜いている訳。いつ殿方に唇を求められても良いようにね。もう、準備万端だよ。でもさ、卓也、あんたには、あたしの唇を奪わせないわよ。あんた、バカだからさ。次の日、あたしとキスしたーなんて、クラスのみんなに言いふらすでしょ。きっと言うわ。それ最悪。バスケ部の凡蔵先輩とかさ、あたしにキスしてくれないかなあ。なんて。あーん、もうバカ。そんなことあるわけないじゃん。でも、凡蔵先輩って、かっこいいなあ。」
なんて、考えながら、口の産毛を抜いているのだろう。
そう思うと、この女子高生が、どうにも愛おしくなってくる。
幸あれと後ろから眺めていた。
駅に着くと、女子高生は、カバンを持って、ホームに降りて行った。
そのホームの先には、何があるのだろうね。
誰かが待っているのだろうか。
兎に角、クラスじゃ、たぶん人気者の、可愛い女の子なんだろうなと思った。
1649 下関駅着。
一瞬、改札口から出て、ああ、こんな風景だったなと、駅前の景色を確認。
1703 下関駅発。山陽本線、小倉行き。
関門トンネルを抜けて、1719、小倉駅に到着。
小倉駅を出ると、なかなか良い雰囲気を感じる。
ホテルは、駅のすぐ近くだ。
まずは、チェックイン。
事前にホテルの写真をネットで見ていたものだから、てっきり、年配の男性がフロントにいると思っていたら、美人のお姉さんが出て来たので、ちょっと嬉しくなる。
宿泊代金の1000円と、消費税100円、それに宿泊税の200円を支払う。
部屋に入ると、暗いなと思った。
窓はあるのだけれど、ボードで覆いをしてあるので、外を見ることは出来ない。
気が付いたら、どうもスモーキーな匂いがする。
そういえば、ここは、禁煙も喫煙も区別がないホテルのようである。
リセッシュが置いてあったので、壁やジュータンに振りかける。
しかし、兎に角、1000円だからね。
もう、充分満足な部屋である。
さて、散策と夕食の店探しを兼ねて、外出しよう。
ホテルの周りは、向かいに、ファッションヘルスとテレクラがある。
というか、今の時代にテレクラが存続していることに感動。
周りを歩いてみると、ストリップ劇場、ピンク映画館、大人のおもちゃのお店と、なかなか、面白い環境である。
商店街を歩くと、呼び込みもあり、小倉の熱気を感じる。
2周ほど、商店街を歩いて回って、その端に、フルーツ屋があって、フルーツジュースを売っているようなので、店の前まで行って、声を掛けた。
フルーツ屋のフルーツジュースは、美味しいに違いない。
すると、年配の女性が、頭をポリポリしながら出て来た。
迷ったが、声を掛けた手前、何か注文しなければと、オレンジジュース400円を注文。
しばらくしたら、普通のコップに、氷もなく、しぼっただけのジュースが出て来た。
まあ、オレンジジュースに間違いがない。
ただ、もう少し冷たかったらね。
さて、早いけれども夕食としよう。
さっき2周回った時に、あるお店に目を付けていた。
それほど広くない間口の顔つきから察するに、美味しいお店の匂いも感じる。
店の前のボードには、餃子の文字があった。
餃子なら、それほど高くはないだろう。
ただ、ドアが閉まっているので、中の様子は窺えない。
さあ、どうする。
と、迷ったが、店の名前に惹かれて、ドアを開けた。
餃子と酒肴の店 「みゆき」さん。
ドアを開けると、シマッタと思った。
意外と、値段の張るお店なのかもしれない。
カウンターには、大鉢にその日の総菜が並べられ、壁には、その日の旬のものが書かれている。
8席だけのお店に、カップルが3組、ただ、夫婦ではない。
おそらく、近くのラウンジなどのママとお客という感じだろうか。
ただ、客筋も良く、隣の年配の男性などは、みんなから先生と呼ばれていたので、弁護士とかそんな感じだろうか。
みんな、ちょっと凝った肴に、地酒を、洒落たグラスで飲んでいる。
ボードのお品書きを見ても、値段は書いていない。
どこが餃子なんだ。
さて、どうする。
こんな場合、選択肢は、2つだ。
その1つは、看板の餃子と大鉢の総菜の1品ぐらいを取って、それで、ビールを2杯ほど流し込んで、それで店を出る。
これは、安全策だ。
もう1つは、諦める。
折角、みゆき(さん)という名前に惹かれて入ったのだ。
それに、目の前の総菜などは、いかにも美味しそうである。
まずは、生ビールを頼んで、様子を見る。
しかし、すぐに店を出たとしても、行く当てはない。
今見て来た商店街の店は、どうも大勢でワイワイやるお店が多そうだったし、今からお店を探すのも、面倒くさい。
それに、何といっても、名前に申し訳ない気がした。
いや、名前に申し訳ないと言っても、始めっから、みゆきさんとは無縁な訳で、申し訳ないと考える必要は、これっぽっちもないわけなのであるけれども、どうも、みゆき(さん)とついたら、見えない糸を探ってしまう。
それだけ、こころが、みゆきさんにやられてしまっている凡がいるのである。
「よし、諦めた。」と思ったら、お姉さんが、「何か、お気軽におっしゃってください。」というので、ボードにあった「岩ガキ」を頼んだ。
ヤケクソである。
お姉さんのオススメで、岩ガキを、半分は生で、半分は炙りで出してもらうことにした。
この辺のアドバイスもまた、心地よい。
周りは常連ばかりだけれど、常連顔して出しゃばったりする人ではないので、じっくりと腰を据えてしまった。
まずは、突き出しに、イワシの炊いたん。
柔らかくて、これはイケた。
そして、岩ガキ。
これはもう、文句ない美味しさだ。
クリーミーな濃厚さと、おろしポン酢がベストマッチだ。
お店のスタッフは、男性1名と、年配の女性に、もう1人女性の3人だ。
この年配の女性が、凡に気を遣ってくれて、いろいろ話しかけてくれる。
ポン酢とか足りなければ言ってくださいとか、気になることがあったら、何でも言ってくださいと、気を遣ってくれる。
話を聞くと、この年配の女性がお母さんで、男性と、もう1人の女性が、息子と娘だそうだ。
調理は、息子さんがやっている。
そこで、「みゆき」(さん)という名前だ。
これは、お母さんの父親は、この辺りで和菓子のお店をやっていたそうで、その時の屋号だということだった。
「御幸」だそうです。
そこで、実は、凡は、中島みゆきさんが大好きで、名前に惹かれて入ったと告白した。
すると、恋人の名前だとか、みゆき(さん)という名前に惹かれて入ってくる人も、やっぱりいるという。
でも、中島みゆきさんからの、名前で入って来た人は、凡ぐらいだと言う。
そんな話をしていると、隣にいたカップルの男性が、「中島みゆき(さん)は、昔は、気持ちの悪い女だと思っていたが、あの曲は、ええなあ。あれは好きや。」と言った。
「へえ、何の曲ですか。」と聞いたら、「永遠の嘘をついてくれ」だった。
ほう、そんな曲を選びますか。
意外と、こころの中では、みゆきさんが好きだったりしてね。
それで、1フレーズ、男性はカウンターで歌ってみせた。
まあ、それは聞きたくなかったが、面白いなと思った。
その後、餃子に豚シソのはさみ揚げなどを注文。
ビールを4杯ほど飲んで、日本酒に切り替えた。
地酒もこだわったものを置いていて、オススメを頼んで、そのラベルを見るのが楽しい。
とはいうものの、少しばかり酔っぱらっているので、日本酒の味の違いなんて、次の日になったら、忘れていた。
さて、そろそろ切り上げようかと思ったら、「これ、ちょっと食べてみて。」とか言って、小さな小鉢を置いてくれる。
もう、何をしてくれるのよ。
お姉さんに、「これで計算が狂ったよ。もう、これで出ようと思ってたのに。」と言って、また日本酒を注文する。
そんなことが、2度ほどあって、ようやく店を出た。
お会計は、たしか、10800円だったような。
少し使ってしまったが、諦めたんだから、仕方がない。
このお店は、喫煙オッケーなので、タバコを吸われる方には、良いかもです。
凡は、吸わないけれどね。
お店を出て、ホテルに帰る途中で、道端に座って歌を歌っているオッチャンがいた。
モノマネをやるという。
面白そうなので、「中島みゆきさん出来る?」と聞いたら、酔っぱらってたので、忘れてしまったが、「空と君のあいだに」だったか、何とか1フレーズぐらいを歌ってみせた。
知らなかったんだろうね。
無理やり、捻り出したという感じだ。
でも、歌ったものね。
300円払う。
いや、楽しい夜である。
(オッチャンに、ネットにアップして良いか聞いて、オッケー貰ったが、凡も酔っぱらってるし、オッチャンも、ネットのこと知ってそうにないし、薄めのモザイクでアップ。)
それで帰れば良いものを、ヤケクソで、というか、ご飯的なものを食べたくなって、ホテルの近くの天ぷら屋に入る。
ビールと定食。
揚げたてなので、美味しく頂く。
んでもって、ホテルに帰って、シャワーをして、バタンQ。
楽しい夜だったなあ。
(まだまだ先があるので、ちょっと文章長くなりました。お付合い頂いて、ありがとう。)
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