平 凡蔵。の 創作劇場

恋愛ストーリーや、コメディタッチのストーリー、色んなストーリーがあります。
どれも、すぐに読めちゃう短編なので、読んで頂けたら、うれしいです。

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散散歩歩。(331)アイラブユー・ほたえてくれ!みゆきさーん。(86)

みゆきさんの縁会の追加公演が終わった。
会場のドアを出て、フェスティバルホールの階段を上から見下ろす。
1階では、みゆきさんのファンの同好会のようなグループが、楽しそうに会話をしながら余韻に浸っているように見える。
凡の自宅は、このフェスティバルホールから歩いて淀屋橋まで行って、そこから京阪電車で1本だ。
とはいうものの、真っ直ぐに家に帰るということをしないつもりで、ミニボンにも夕食はどこかで食べて帰ると伝えて今日は出てきたのです。
今終わったばかりのコンサートのみゆきさんの声や表情を、まだ凡のココロの中で、少しばかりの時間でも、温めていたいのです。
家に帰ってしまうと、もうすぐに日常の生活に戻らなきゃいけない。
まだ、もう少しだけ、この非日常の世界に、自分の身とココロを置いていたい。
フェスティバルホールの横にある「フェスティバール&ビアホール」さんに入ろう。
入り口は、1人ではちょっと入りずらい雰囲気だけれど、ビアホールという名前で、中年の男性1人でも大丈夫かなと思った。

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閉店は11時。
コンサートが終わって、ゆっくりしていたのでお店に入ったのは10時ぐらい。
まあこれぐらいが、ちょうどいいのかな。

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お店の中は、時間も遅いせいかガラガラで、ガラス張りの1列だけに客が座っている。
凡も、小さなテーブルにガラスの壁を向いて座る。
外は堂島川が流れ、サントリーのビルが見える。
ロマンチック。
まあ、若いサラサラロングヘアーの女の子と来ればの話だけれどね。
凡の左はサラリーマン2人組が、ワインなどを格好つけて飲んでいた。
そして、右側には、かなりガッチリとした若い女性が、既に座ってスパゲッティのようなものを食べていた。
こういう店ではパスタと呼ぶものだろうか。
よく見ると、スパゲッティの他にも、生ハムや、いろいろな料理5皿ぐらいを小さなテーブルに所狭しと並べて、黙々と食べている。
それに、黒ビールの空いたジョッキ。
まだ、食べ始めて、それ程時間が経っていない雰囲気なので、或いは、みゆきさんのファンなのか。
それにしても、よく食べるねと思いつつ、凡も注文をした。
折角だから、贅沢に「黒毛牛肩ロース肉のステーキオニオンペッパーソース」1480円。
そして、ヱビスビール。630円。

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(肉とポテトのバランスが違うように思えるのは凡だけだろうか。)

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冷たいビールを流し込んで、ステーキを口にほうばる。
至福の時間。
それにしても今頃は、みゆきさんは、どうしているんだろうね。
コンサートが終わって、一息をついて、スタッフのみんなと「お疲れ様ー。」なんてさ、疲れてはいるんだけれど、無事終えられた安堵感からくる、とびっきりの笑顔で話をしているのかもね。
ミュージシャンだから、ハグし合ったり。
熱いステージでかいたみゆきさんの汗が、ハグをしたときに伝わってくる。
みゆきさんの、体から出た、みゆきさんそのもの。
凡も、みゆきさんとハグしたいよー。
、、、、嫌だ。
バックコーラスの女性だったら、みゆきさんとハグをしてもいいけれど、他の男性とは絶対ハグしてほしくない。
そういう想像は、否定しなきゃいけない。
でなきゃ、繊細な凡はストレスでまいっちゃう。
頭の中の、みゆきさんがハグをしているイメージを消しゴムで消そう。
「ゴシ、ゴシ、ゴシ。」
或いは、近くのホテルへもどって、シャワーでも浴びているのだろうか。
今まで来ていた舞台衣装を脱いで、熱いシャワーを頭から流す。
ステージでのファンからの声援を思い出しながら、興奮と感謝と愛と、そんな感情を全部そのまま受け入れて、自分の宝物にしていく時間。
ジャスミンの香りのシャンプーを洗い流すと、ファンが自分を愛してくれている現実が嬉しくて、これからもがんばろうと思う。
細くて白い腕、柔らかなウエストから腰へ掛けてのライン。
伸びやかでしなやかな脚。
今日1日の汗と疲れを洗い流したら、透き通るような白い肌が、ほんの少し赤くなった。
こんな完璧な女性はいるだろうか。
バスルームを出ると、ソファには既にシャワーを終えた凡がいる。
白いバスローブに、上質のシャンパン。
「みゆきさん。今日もファンから、愛をいっぱいもらったね。」
「凡ちゃんも見てくれた?でもね、本当はステージで考えてたのは、凡ちゃんのことだけだったの。」
「バカだな。さあ、こっちへおいで。」
「凡ちゃん。大好き。」
なんてね、そんな妄想を楽しんでいると、ビアホールのウエイトレスさんが声を掛けた。
「お食事がラストオーダーです。」
えつ、ラストオーダーって、まだ入って15分ぐらいなのに早すぎない?
仕方なく「中の島ナッツ」というタンドリーチキン風味のナッツを注文。

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ビアホールのお姉さんの声で妄想が中断されてしまった凡は、冷静に考えると、そんな展開ある筈はないという現実に気が付かされて、寂しい思いで残りのビールを飲み干した。
ある筈はないんだけれどね、夢を見るだけはいいよね。
「夢」
そうだよね、みゆきさんに逢えるなんて夢だよね。
つまりは、現実じゃない。
もう、やめてよね、ビアホールのお姉さん。
せめて今だけは夢を見ていたかったのにさ。
現実に生きる凡は、現実のビアホールで、現実のメニュウを見ながら、現実にこれから飲もうとするビールを、現実の料金とにらめっこしながら、考えるのでありました。
そして、現実を思い知らしてくれたお姉さんに言った。
「スタウトをください。」

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