駅の周辺は、昼間からお酒を飲める居酒屋のようなお店が多く、それも賑わっていた。
そんな上野というのは、いい街ですね。
雑多な匂いが、誰もを招き入れているようで、心地いい。
さて、お腹が空いたので、お目当ての蕎麦を食べましょう。
といっても、20代に来ただけなので、記憶だけが頼りだ。
見当をつけて歩き出す。
すると不忍池に出た。
蓮の枯れた茎の部分だろうか、池の岸の一面に広がって、ここが東京だとは思えない、風情がある。
地図の看板で、池之端という地名を確認して、その方向に歩いて行く。
記憶だけで、うろうろ探し回って、繁華街の中にお目当ての「池之端藪そば」を発見。
記憶では、もっと違う場所だったようにも思ったのだけれど。
ここの藪蕎麦は、20代の頃、東京へ来たらやっぱりそばを食べなきゃということで、とりあえずは、やぶ3店に行ってみようと、「かんだ」「並木」「池之端」の3店を1日で回ったことがある。
当時も食べることは大好きだったんですよね。
そして、少しばかりミーハー。
店に入ると、座敷とテーブルがあって、テーブルにつく。
まずは、ビールの小瓶。
そして、天ざるを注文。
このビールの小瓶を置いているお店は、いいお店であることが多い。
凡は、この小瓶を飲み干して、テーブルにころがしていく、その感覚が面白くて好きだ。
そして、何より見た目が可愛い。
何か貴重な液体を飲んでいるという有難さも湧いてくる。
それか、大瓶である。
これは、しっかりと飲める。
最近は、どこに行っても中瓶しか置いていないお店が多い。
これは、少し考えなきゃいけない。
どっちつかずの、平均的サイズ。
あまりにも日本人的な発想で、何の主張もない選択である。
とはいうものの、たとえ中瓶でも、出されれば喜んで「んー。うまい。」なんて喜んではいるのでありますが。
1番に重要なのは、中身ということですか。
運ばれたビールには、練りみそがついていて、いかにも粋な計らいである。
周りを見てみると、半分ぐらいの席が埋まっている。
時分どきを過ぎたせいか、落ち着いた雰囲気だ。
あとで知ったのだけれど、ラストオーダーの10分前にお店に着いたようである。
セーフ。
隣のテーブルは、70歳ぐらいのお夫婦で、旦那は熱燗にもりそば。
さすが、東京ですね。
待ち時間に、みゆきさんの「蕎麦屋」を聴きたくなった。
凡は、蕎麦屋を歌うみゆきさんの声が好きだ。
それに、いかにもフォークソングという曲調が、凡を学生時代に引き戻してくれる。
あのころに、歌詞のようなシチュエーションがあったらなあと、羨ましくなる。
凡の学生時代は、どうも女っ気もなく、学生っぽさもなかったように思う。
そんなことを考えていると、お目当ての天ざるが運ばれてきた。
青みのあるそばの色合いは、見ているだけで美味しそうだ。
てんぷらは、海老の1本揚げではなく、かき揚げのようだ。
てんぷらを箸で割ると、中にはぷりぷりとした海老が入っている。
つゆに浸して、口に入れると、軽い油とつゆの旨みが瞬時に広がる。
文句なく、うまい。
1本揚げだと、大きな海老を前歯で噛み切って食べるのだけれど、またそれも豪快で楽しいけれど、やや口中で海老と衣が分離して、別々の素材として味わっているような感覚がある。
それに比べて、小さい海老のかき揚げは、口の中に入れたら、それで口の中で完結する。
その1回分で、口中は海老と衣の旨味と油が一体となって味わえるという感覚に思える。
それに何と言っても、てんぷらは衣だ。
このかき揚げは、軽いサクサクとした食感が、とてもいい。
カッコをつけて、もりなんかにしなくて良かったと思った。
そして、そばである。
始めの1箸を口にいれた途端、これはいいと思った。
東京で、こんなそばを食べられるとは思わなかった。
ちょうどいい、湯がき加減なのである。
最近のそばは、というか麺類全般に、コシを重視する風潮が強い。
あれは、どうもいけない。
それも、硬い麺をコシのある麺と勘違いしている人が多い。
コシのある麺を自慢している職人やお店が多いけれど、1から、白紙の状態から麺というものを自分の口の感覚だけで創造してみたことがあるだろうか。
そんな人はいないと思う。
誰かが言っているから、流行っているからという理由でコシを重要視しているだけだと思う。
それに食べる方だって、コシがあって美味しいなんて言う人がいるけれど、マスコミの洗脳であると思う。
凡は、柔らかい麺を出すお店がもっと増えてくれることを切に願うものであります。
さて、ここ池之端の麺は、硬い麺ではなく、といって柔らかすぎもせず、最適の麺の状態である。
そして、つゆは天ぷらと同じつゆなので、東京のもりそばのつゆのように醤油からくなく、関西の人も大好きな味だ。
たっぷりと麺をつゆにつけても、おいしいのであります。
すっかり池之端の藪のファンになってしまった。
帰りに、「美味しかったです。」とお礼を言って、お店を出た。
凡と同時に店を出た70才ぐらいのご夫婦が、仲良さそうに寄り添って歩いていく。
どうも気分のいい上野の昼下がりであります。
コメント