平 凡蔵。の 創作劇場

恋愛ストーリーや、コメディタッチのストーリー、色んなストーリーがあります。
どれも、すぐに読めちゃう短編なので、読んで頂けたら、うれしいです。

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散散歩歩。(117)朝の温泉。

門真市駅から自宅まで歩いて帰る途中に、国道163号線の下を地下道で渡る部分がある。
3日前、23日の11時過ぎの仕事から帰り道の事である。
地下道を歩いていると、「クリスマスイヴって何やねん。」若い男性の声が響き渡った。
前方を見ると、就職して1年目ぐらいだろうか、若い男性の3人組が、仕事帰りに同期でちょっと一杯と、会社近くの居酒屋でビールとお酒を少し飲んだ帰りなのだろう、少しテンションの上がった様子で歩いて来る。
「クリスマスの前夜を祝うなんて、意味わからへん。どういうことやねん。」
3人組の真ん中の男の子の悲痛な叫びが続く。
「そうだ、その通り!」凡はそう男の子に言いたかったが、酔っ払い相手にそれはやめた。
しかし、そうなのである。
クリスマスイブというような、特別な日は、即刻に廃止するべきである。
この日本に特別な日はいらない。
そして、キリスト教の教会歴によると、日没が一日の区切りなので、24日の日没後は25日ということになって、ちゃんとその日もクリスマスなので祝っていい理屈になるのでありますが、この青年には、そんなことは関係ないに違いないのであります。
この青年が、翌日のクリスマスイブをどんな風に過ごすのかを考えると、誰か知らない青年であるけれども、悲しい笑いが出てきて、すれ違う時に「幸あれ。」と小さな声で呟いた。
さて、話は1か月前に飛んで、11月23日。
書くペースが遅いので、中々進みません。
鳥羽シーサイドホテルに宿泊した翌日であります。
温泉のあるホテルや旅館に泊まったら、到着してすぐに温泉に入りにいくのだけれど、その翌朝も朝食前に温泉に入りたくなるのは、これは誰でもそうですよね。
凡も、あまり眠れなかったせいで、ぼんやりとした頭を覚ましに、朝風呂へと向かいました。
昨日は、大きな風見の湯だったので、今朝は「岬の湯」へ行く。
少し小さな浴場だけど、露天風呂もあって、ゆっくりと温まった。
さて、これから朝食だ。
そう思って脱衣所に出た。
「あれ?凡の脱いだ浴衣を入れた籠はどれだったかな。」
ついさっき入れた籠を思い出せない。
思い出せないという事実がショックとなって、さらに頭の中が、空っぽになる。
空っぽになると、更に思い出せなくなる。
空っぽの脳。
しかし、しばらくすると、何となく思い出してきた。
脱衣所の中央ぐらいにある籠。
やっと見つけた籠の浴衣をどけると黒いパンツがあった。
こんなパンツだったかな。
確かに凡のパンツに似ているが、どうしてかハッキリとした確信が持てない。
黒いパンツを持って、裏返したり、ひっぱったりしてみるのだが、確信が持てない。
凡は半分泣きそうになっている。
少しボケたお年寄りの気持ちが痛いように、今は解る。
今、凡はそのお年寄りの入り口に既に立っているということなのか。
さてここで、凡のパンツについて説明しておかなければいけないだろう。
女性の皆さんも、どうぞ凡のパンツ姿をご想像くださいませ。
小学生の頃は、白のブリーフを穿いていた。
その当時の子供はみんなそうだった。
母親が買ってくれていた。
高校生になると、どうも白いブリーフというのは恥ずかしいということに気がついたのであります。
それ以来、トランクス型のパンツを穿くようになった。
ボクサーのような形で、縞の柄が入っていたりする。
そして、結婚してから、ある日ミニボンが、ボクサー型のブリーフというのを買ってきたのです。
そして、言った。
「最近の若い子は、こんなパンツ穿いているらしいよ。」
そうなんや。
若い女の子と、飲みに行って、何ぞ事があった時、若いパンツ穿いてなきゃカッコ悪い。
そんな、いつ訪れるかも分からないが、絶対に絶対に無いともいえない状況に備えて、ここはボクサー型のブリーフにしよう。
格闘家が穿いているような形の黒いブリーフ。
とはいうものの、今のトランクスも在庫がある。
なので、凡は毎朝シャワーをするのですが、その後に若い子のパンツを穿くのであります。
これで準備万端。
さあ、若い女の子よ、いつでもウエルカム。
それで、仕事が終わって家に帰って、お風呂に入ると、こんどはトランクスを穿きます。
ゆったりとしたパンツで、ビールを飲むのは最高です。
そんな凡のパンツ事情がありまして、さて鳥羽シーサイドホテルの岬の湯の脱衣所であります。
今手にしているのは黒のボクサー型のブリーフだ。
しかも、汗で湿気た感じのヨレヨレ感も似ている。
そうだ、これだな。
そう思って、バスタオルで顔や頭から始めて、胸元あたりまで拭いたときに、「ギャー。」っと叫びそうになった。
違う。
違った。
凡のパンツじゃない。
慌ててバスタオルを元の籠に戻した。
セーフ。
本当の籠の使用者が戻ってきたら大変なことになっていた。
そして、再度探すと、果たして、その籠の棚に対して直角に曲がったところに凡の籠を発見した。
しかも、ついさっきまで穿いていた凡のパンツは、黄色いトランクス。
黒いパンツか黄色いパンツか思い出せないなんて。
、、、絶望。
絶望、それは死に至る病。(キルケゴールは読んだことがないのですが)
もうすでに、凡の精神的な死は始まっているのか。
とはいうものの、その絶望も、その内に凡の脳はボケて認識しなくなるだろう。
やむを得なければ、仕方がない。
人生とは、仕方がないものである。
さて、本当の凡の籠を発見した凡は、本当の凡のバスタオルで顔を拭き始めた。
その時、凡の頭の中に、ある映像が鮮明に映し出された。
「ぎゃー。」
ホテルに着いたら、まず温泉だ。
ここ鳥羽シーサイドホテルには、部屋にバスタオルと小さいタオルが用意されている。
それを持って温泉に行くのであります。
なので、先ほどの誰か知らない人のバスタオルは、誰か知らない人が、前の日に既に使用した後のバスタオルなのだ。
誰か知らないオッチャンが、お尻の穴周辺部を丹念に拭いた後のタオルなのです。
そのオッチャンのお尻の穴周辺部のタオルで、凡は顔を拭いていた。
誰か知らないオッチャンのお尻の穴との間接キッス。
きっとイボなんか生えていて、汚い色のお尻の穴周辺部。
その映像が鮮明に凡の脳に映し出されている。
これはいけません。
小走りで、また浴場に戻って、頭のてっぺんから勢いよくシャワーを掛けた。
オッチャンのお尻の穴周辺部よ、流れてくれ。
そして、再度脱衣所に戻ると、凡より4、5才年配の男性が、呑気にバスタオルで体を拭いていた。
凡に起きた悲劇。
でも、これは明らかに凡が加害者でありまして。
何も知らずにバスタオルで体を拭いている人が被害者なのであります。
その男性が凡より先に浴場を出て行く後ろ姿に向かって、ペコリと頭を下げた。
「ゴメンナサイ。」
そして、この事件が凡の老後のボケに対する恐怖となって、こころの底に刻まれたのであります。
そして何より、このオッチャンのパンツを穿かなくて良かったと、心の底から思ったのであります。

画像

(こんな綺麗な風景も、いずれ凡は忘れてしまうのだろう。)

コメント

  1. とっちゃん より:

    凡蔵さん、危うく汚い尻の穴の人のパンツを履くところでしたね!
    もし履いていたらそれこそショックが大きいですよ~
    タオルで気が付いて良かったと思わないと!

  2. 凡蔵。 より:

    ありがとう、とっちゃん。
    知らないオッチャンのパンツは嫌ですよね。
    絶対、嫌だ。
    でも、そのオッチャンにしてみれば、他の人にタオルを使われるのは、嫌だったでしょうね。
    勿論、オッチャンは気が付いていないのですが、本当に申し訳なかったです。

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