深い緑色のランプシェードの光を、ただぼんやりと眺めながら、照度を落としたホテルのバーのカウンターに座っている。
2席隣から、やや低めの非日常のトーンでしゃべる会話が、それとはなしに聞こえてくるが、気に障ることはない。
耳の上まで綺麗に刈り上げたバーテンダーが、グラスにイエロートパーズの液体を注いで、
そしてゆっくりと凡の目の前にグラスを差しだした。
グラスの中で静かに小さな真珠が立ち上る。
絹のようなクリーミーな泡が新雪のように白く淡く揺れている。
完璧だ。
これこそ完璧なビールだ。
凡は惜しみもなく、喉に流し込んだ。
その柔らかい泡は、唇に数秒間の至福を与えてくれる。
ふとカウンターの端を見ると、サラサラロングヘアーの20代の女の子が座っている。
折れそうに細い指で髪をかき上げて、少し唇をとがらせながら、凡の口にビールの泡が付いているジェスチャーをした。
凡は中指で、その泡を拭いて、まるで手品師がするように泡を消してパチンと指をならしておどけてみせた。
こんな完璧なビールには、そんなシチュエーションが似合う。
そして、ビールには泡という存在が重要な要素なのであります。
特に、濃厚なビールには、きめの細かい泡が必要だ。
ギネスビールなどは、泡がないとギネスじゃない。
しかし、最近思うことがある。
自宅や安い居酒屋で飲むようなビールに関していえば、泡は果たして必要なのだろうか。
もちろん、泡は炭酸から発生している。
そして、ビールには炭酸が必要不可欠である。
凡は炭酸が大好きです。
凡の気持ちで言えば、ビールが好きというよりは、炭酸が好きなのかもしれないとさえ思うことがある。
であるからして、炭酸あるところに泡はあるのである。
でも、泡は絶対になくてはならないと断言するほどの泡に対する思い入れも無いのであります。
泡の多いビールを飲むときは、冷たいビールを一気に喉に流し込みたいと思っているのに、泡が邪魔をして、なかなかトパーズの液体が口中に入ってこない。
グラスをかなりの角度で傾けて、やっとの思いで飲んでも、唇の上、鼻の下に泡がついてしまう。
指で拭くと、こんどはその指をまた別の布巾で拭いたりしなきゃいけない。
かと言って、テーブルを拭いた布巾で鼻の下を拭くのは嫌だ。
それじゃ、ティッシュで拭くしかないのだけれど、ビールを飲むたびにティッシュで鼻の下を拭いていると、ティッシュの山ができるし、外で飲む場合は
、「あのおっちゃん、ビール飲むたびに、鼻かんでるで。鼻水ダラダラやん。」
「本当、でも男前やわぁ、うちタイプかもしれへん。」
「いくら、男前でも、鼻だらだらは、あかんやろ。」
「そらそうや。鼻だらだらは汚いわ。」
なんて、若い女の子にひそひそ話をされてしまうだろう。
、、、それじゃ、一体どうすればいいのよ。
厄介な泡である。
凡の住んでいる門真の駅の前にラーメン屋があります。
そして、飲んだ帰りに、もう少し飲みたいなとか、少し温かいものを食べたいなというときに一人で入ることがあります。
そこのラーメン屋には、すごく細身の女の子が、お店のTシャツを着て働いているのですが、この子が可愛いのであります。
とはいうものの、ここは一旦可愛いことは置いといて。
その女の子にビールを注文すると、中ジョッキにビールを注いで持ってきてくれるのですが、ジョッキのてっぺんスレスレまでビールを注いてくれるのです。
しかも、生ビールなので、最後にレバーを倒して細かい泡を乗せるのですが、この泡が1センチも厚みがないように注いでくれます。
ジョッキのてっぺんから、底まで、正味ビールなのであります。
こんな場合を考えると、泡はいらないのであります。
寧ろ泡がないことが有難い。
これが安い居酒屋で注文すると、ビールの泡がジョッキの4分1ぐらいある場合があるのです。
これはもう何か損をした気分になるのでありまして、そんな場合は何故か泡が苦いのであります。
それに比べて、ラーメン屋の可愛い細身のTシャツの似合う女の子は、その辺の貧乏人のビール好きの気持ちを解っているのでしょう。
そこで、凡は全国のビールを注ぐ人に向かって叫びたい。
「ビールに泡はいらない。」
その泡の分、正味の液体を、どうか、なみなみと注いでくれたまえ。
コメント
あーっ!
ビール好きの後輩が同じことを言ってましたよ。
泡は蓋。
泡がビールの気が抜けるのを防いでくれます。
ですから、飲む度に泡ノ跡がリング状にグラスの内側に残る飲み方が好きですね。
ありがとう、kojiさん。
さすが、後輩も泡不要派なんですね。
他にも探せば結構泡不要派がいるかもしれないですね。
kojiさんは、泡の後のリングなんて、なかなか粋な飲み方をされるんですね。
kojiさんこそ、ホテルのバーのカウンターが似合いそうですね。