もう出なくちゃと思いながら、忙しく出かける用意をしているその横目でテレビ番組を見ていた。
大阪でやっている「よーい、ドン」という番組だ。
その番組の中で、八光さんがやっている隣の人間国宝さんというコーナーがある。
大阪を中心とした地域をぶらぶら散歩するように歩きながら、その地域の人に声を掛けたり、面白い人を見つけたりするコーナーだ。
なんと言うこともない番組だけれどついつい見てしまう。
大阪では結構見られているんじゃないかな。
そんな番組で、二人の中年の男女が映った。
八光さんが声を掛ける。
男性は外国の方で50歳台だろうか。日本に来て10年ぐらい経つのかもしれない。
ヨーロッパ系の顔立ちで、言葉はそれほど流暢じゃない。
その男性を隣の中年の女性が、こう紹介した。
「彼はチェロリストなんです。」
そういえば、大きな黒いケースを無造作に抱えている。
休日を利用して、オーケストラのグループに参加しているのだろうか。
見た目は半分プロのような雰囲気をかもし出している。
「チェロリスト。」
カッコイイー。
あまりにもカッコ良過ぎるじゃないですか。
バイオリンでもない。
コントラバスでもない。
チェロだ。
丁度いい品の良さである。
しかも、それを弾くことを趣味としている。
それを人はチェロリストと呼ぶ。
ああ、すごく羨ましい。
それに比べて、凡はどうだ。
何もない。
ナッシングだ。
せめて凡にも「イスト」と付く何かが欲しい。
無論、欲しいといって付くものではない。
何かを探求している姿が人に「イスト」と呼ばせるのであろう。
でも、「イスト」が羨ましいのである。
そうだ、凡も「イスト」を探そう。
凡は食べる事が大好きだ。
だから、「食べイスト」
、、、何かマヌケだ。
凡はビールが大好きだ。
だから、「ビーリスト」
、、、何か言いにくいし、言われた人も何のことかピンとこないだろう。
凡は、、、、、、、、、、、、、、、、、もう、何も出てこない。
「ナッシングイスト」
「凡イスト」
「愚イスト」
そんなことを考えていると、「山之口獏さん」の「数学」という詩を思い出した。
『安いめし屋であるとおもひながら腰を下ろしてゐると、側にゐた青年がこちらを振り向いたのである。青年は僕に酒をすゝめながら言ふのである
アナキストですか
さあ!と言ふと
コムミユニストですか
さあ!と言ふと
ナンですか
なんですか!と言ふと
あつちへ向き直る
この青年もまた人間なのか!まるで僕までが、なにかでなくてはならないものであるかのやうに、なんですかと僕に言つたつて、既に生まれてしまふた僕なんだから
僕なんです』
(以後は略させていただきました。)
凡はあまり詩というものを読まないのですが、山之口獏さんだけは好きです。
そう、僕なんだから僕なんです。
だから、僕でいいのです。
「イスト」はいらないのです。
そんな事を考えていると、隣にいたミニボンがこう言った。
「花粉症やから、アレルギストはどう?」
アレルギスト?
そういえば何か言葉の響きはどことなくカッコイイ。
それに、長年悩まされ続けた花粉症は凡を表現するに相応しい。
あんな小さな目に見えない花粉であるが、ひとたび凡の鼻腔に入るや否や、猛烈なむずがゆさと猛烈なクシャミとなって凡を襲う。
そのたびに凡が生きてこの世に存在している事を証明してくれるのである。
そうだ、これだ。
凡は玄関のドアを出て、右手を大きく上に挙げてこう宣言した。
「えっへん。我輩はアレルギストである!」
少し偉くなった気がした。
(アレルギストの必需品は点鼻薬であります。)
コメント
ア、アレルギストですか・・・
そ・そ・そこかい!(笑)
凡蔵。さんは チラシリスト でしょ(*^_^*)
あそこまで奥深い読みとれる人はいません♪
ありがとう、とっちゃん。
どうですか、聞いた感じちょっとカッコよくないですか。
目に見えないちっちゃな花粉と戦う中年。それが、アレルギストですよ。
みんなの憧れ、アレルギスト参上!ってね。
ありがとう、oriverさん。
あ、「チラシリスト」。
それもいいですね。
♪ちらーし、寿司ぃーなーらー。ちょいと寿司太郎♪
散し寿司が好きだから、チラシリスト!
えっ?違った?