平 凡蔵。の 創作劇場

恋愛ストーリーや、コメディタッチのストーリー、色んなストーリーがあります。
どれも、すぐに読めちゃう短編なので、読んで頂けたら、うれしいです。

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散散歩歩。(304)アイラブユー・ほたえてくれ!(70)

大きなマグにインスタントコーヒーを淹れて、机に向かう。
注意深くダイアルを回して周波数を合わせると、ジャミングという妨害電波や雑音に交じって、お目当ての局からの声がイヤホンに流れた。
かすかに聞こえるその声は、遠くベトナムからからの、当時では解らなかったニュースを伝えている。
中学生の時に、ブームだったBCLに凡も乗っかっていた。
遠い国からの便りは、電波という目に見えないもので日本までやってくる。
地球の上にある2つの街が電波で繋がっているという感覚は、今のインターネットより頼りないのではありますが、同時に繋がっているというワクワクした気持ちになる。
そして、受信したことを放送局に手紙で送るとべリカードと言う受信確認書が送られてくる。
これが楽しいんです。
凡は、放送そのものよりも、そのカードが欲しかったんだ。
その局や国の独自のデザインのカードが魅力的だった。
そして、高校生になって、凡も受験勉強というようなちゃんとしたものではないけれど、夜に宿題や勉強をする。
そんな時に、同級生のみんなは中波放送の深夜番組をラジオで聴いていた。
でも、凡はあまり聞くことがなかった。
本を読むのとラジオを聴くことを同時にすることが苦手だったんです。
なので、その当時の深夜ラジオについては、まったく知らない。
でも、凡の知らない内に、素敵なことが繰り広げられていたんですね。
これは大阪では、聴けたのか無理だったのか知らないけれど、みゆきさんが東京放送で「ヤマハ・フォークイン」のパーソナリティをしていたんです。
当時のみゆきさんのDJは、どんなだったんだろう。
きっと、可愛い声だったんだろうな。
きっと、癒されたんだろうな。
きっと、カッコ良かったんだろうな。
きっと、惚れちゃってしまうようなお喋りだったんだろうな。
今の凡には、時間を逆戻しすることはできないので、想像の時間を昔の凡に思いはせて、想像のみゆきさんを楽しむしかない。
そして、オールナイトニッポン。
これも聴いていなかった。
この時は、もう大学生だったので、今と変わらず、飲んだくれていた。
進歩してないね、凡。
あの時間が勿体なかったな。
でも、いっそのこと知らないで良かったのかもしれない。
あの当時に、みゆきさんを知っていたなら、恋焦がれて、恋焦がれて、それでも手に入れることができない苦しみから自分を守るために、頭の中で意味のない理屈をこね上げていただろう。
みゆきさんなら、そんな感情を素敵な歌に出来るのだろうけれど、凡には音楽の才能もないし、絵の才能もない。
そんな凡にとって、この恋焦がれているパッションを何かにすり替えるとしても何もない。
そんな感情を抑えるには、酒しかないよ。
ということは、どっちにしても飲んだくれているしか仕方がないことになる。
或いは、哲学者にでもなっていたか。
とはいうものの、哲学者なんて、女の子にモテない。
モテないのなら、飲んだくれるしかないじゃないか。
どっちにしても、みゆきさんにも、女の子にも、見向きもしてもらえないということだ。
とはいうものの、ラジオというものは、今、放送局のマイクの前に座って好きな人が喋っている、その同じ今という時間に、自分もラジオの前に座ってその声を聴いている。
そんな同時を共有する感じがいいんだろうな。
好きな人と繋がっている感じ。
それも、深夜なら、遠い遠い東京の放送局と自分のいる大阪の距離もなくなるというものだ。
ということで、前振りが、えらい長くなってしまったのですが、オールナイトニッポン45周年記念スペシャルで、みゆきさんが24日の日曜日の深夜3時から1時間だけ、オールナイトニッポンをやるというではないですか。
これは、当時のラジオを聴いたことがない凡にとっては、どうしても聴かなくちゃいけない。
でも、ニッポン放送は、果たして大阪で聞けるのか。
ミニボンの持っているラジカセというか、CDとMDがついたラジオをつけてみた。
まったく入らない。
ならば、提携している放送局だったら入るんじゃないかって探したのですが、よくわからない。
オールナイトニッポン・ゴールドを放送しているネット曲を見ると、大阪の朝日放送である。
でも、みゆきさんのオールナイトニッポンはやらない。
どうすればいいんだ。
東京に弟がいるので録音頼んだらとミニボンがいうのだけれど、それじゃだめなんだ。
同時に聞きたいんだ。
となると、もうちょっと感度のいいラジオが必要だ。
ネットで調べると、5000円ぐらいだせば中国製だけれど、いいものがある。
それにしても、安くなりましたね。
とはいうものの、それを買うのも気が引ける。
それで、お休みの日にミニボンとショッピングモールに行ったついでに電気屋さんをのぞいた。
3000円以下で、気になるラジオが2つあった。
1つはパナソニックで10センチのアンテナが内蔵されているという、これは物理的にも感度がよさそうだ。
そして、もう1つは、オーム電機のもの。
これはDSPというチップを搭載していて、アナログの電波をデジタル化して、より鮮明に聴こえるように処理してくれるそうだ。
これは気になる。
迷った挙句に、オーム電機のものを購入。
ミニボンの「たった1時間聴くだけやのに、ラジオ買うんや。」という言葉を背中で聞きながら。
2980円。

画像

早速、その夜試してみた。
小さな箱のラジオのスイッチを入れて周波数1242kHzに合わせる。
それも、細心の注意を払って、指先の神経に集中してダイアルを回す必要は無い。
ラジオの横にあるボタンのようなものをスライドするだけで画面に周波数がデジタル表示される。
もう、「この目盛りがここだから、このぐらいかな。」なんて、手動で合わせる必要なないのであります。
「あ、しもた。通り過ぎた。」なんてこともない。
なので「あ、しもた。またまた行き過ぎた。」なんてことも、勿論ない。
ということは、「あ、しもた。またや、また行き過ぎた。」なんてことは、これもない。
部屋の中で、周波数を合わせると、何か微かに放送とは判別はできないけれども、何か聞こえる。
それで、ベランダに出てみると、入感した。
音が大きくなったり小さくなったりするフェーディングがやや強いものの、確かに放送している会話が、はっきりと聞き取れるのです。
「よし、これでみゆきさんの声を聴ける。」
ただ、当日は厚着をしてベランダで寒さに耐えなければいけないけれどもね。
まあ、それも楽しいか。
その後、ミニボンが京都放送でもみゆきさんのオールナイトニッポンをやることを発見してくれる。
京都放送なら、窓際に行かなきゃいけないけれど、部屋の中で聴ける。
そして、いよいよ当日の24日の朝3時。
凡としては、23日から起きているので23日の夜中でもあるのですが。
そして、23日といえば、みゆきさんのお誕生日。
おめでとう!
そんな気持ちで、イヤホンから流れるみゆきさんの元気な声を追っかけた。
ずっと、聴いていたい。
という時間もあっという間に終わってしまう。
ああ、終わったなと思ったら、その次にある谷山浩子さんのオールナイトニッポンの始まりまで声が聴けたので、これはちょっとオマケを貰った気分だった。
そして何より重大発表。
みゆきさんのオールナイトニッポンが4月から月イチで復活。
バンザーイ!
そして何より何より、ミニボンに1時間だけの為に買ったと言われたラジオをこれからも使い続けることが出来るのであります。

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